【スペックテスト】 ポルシェデザイン/ダッシュボードPTC P’6612

PORSCHE DESIGN
DASHBOARD PTC P’6612
クルマ×時計のひとつの提案
文:イェンス・コッホ/写真:imagina/翻訳:市川章子
世の中にクルマのブランドネームを冠した腕時計は数あるが、デザインイメージを統一させた時計はそう多くはない。筆記具や喫煙用具など数々のプロダクツを持つポルシェデザインが、時計ではどのようなコンセプトを持って、ポルシェを体現したのか。その細やかなディテールに注目したい。
○と×:
○・仕上げ加工がハイレベル
・デザインがうまく決まっている
×
・秒目盛りが一秒刻みのため、コンマ以下の計測ができない
クロノス評価:
・ストラップとバックル(最大10ポイント) 9pt.
・操作性(5) 5pt.
・ケース(10) 9pt.
・デザイン(15) 14pt.
・視認性(5) 5pt.
・装着性(10) 8pt.
・ムーブメント(20) 13pt.
・精度安定性(10) 7pt.
・コストパフォーマンス(15) 12pt.
合計82pt.
キャリバーはETA2894-2を搭載。ポルシェのホイールを意識したローターはスペクタクルで、クルマとドライバーによく似合う。リュウズのサイドやプッシュボタンのヘッドなどに施されたダイヤモンドカットが、高級感を与える。
アスファルトを駆けるクロノグラフ
南独の小都市ギーンゲンの空港へ降り立つと、霧が立ちこめていた。駐車場で私を待っているのはポルシェ911カレラS。ポルシェの中でも新世代のモデルだ。アウトバーンを走るとき、ふさわしいのはやはりクロノグラフだろう。ステアリングを握る腕には、ポルシェデザインのダッシュボードPTC P‘6612がはめられている。今回はウルムのポルシェセンターのご協力のもと、クルマと時計をコーディネートしての検証が可能になったのだ。
運転席左に配置されたイグニッションキーを回すと、6気筒ボクサーエンジンがうなりを上げ、マフラーがガスを吐き出した。いよいよスタートである。クルマが快調に走り出すと同時に、腕の上ではクロノグラフ針が動き出す。タキメーターの数値が0から100km/hへ移るのに、それほど時間はかからなかった。
今回私の腕上におさまったポルシェデザインのこのクロノグラフは、非常に現代的にまとめ上がったモデルだ。文字盤の夜光塗料はシックなグレー。その上を赤い秒針が走っていく様は、さながらポルシェの滑らかな加速のようだ。
あらゆる部分で実車のポルシェを彷彿とさせる
ポルシェデザインは1972年に、ポルシェの創始者の孫であるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェによって設立された。本人もポルシェ911を作ったデザイナーだが、長年カーメーカーの資本には属さない独立企業であった。時計は98年まではシャフハウゼンのIWCが製造を担当していたが、現在ではグレンヒェンのエテルナによって作られている。そして2年ほど前からポルシェに歩み寄り、現在同社の株の65%は「名誉工学博士F・ポルシェ株式会社」が所有している(これがカーメーカーであるポルシェの正式企業名なのだ)。この資本のつながりが理由かは分からないが、ポルシェデザインの時計はこのところ、かなりクルマを意識したデザインになってきている。
さて、アウトバーンをしばらく走ると、やや汗ばんできた。このクルマはシフトチェンジのタイミングがタイトで戸惑うが、タキメーターにも目を光らせなくてはならないから忙しい。ポルシェからお借りして初めて運転するマシンに、私がいかに緊張したかは時計のストラップをめくると一目瞭然だ。しかしカウチュ・ラバーの裏面にはタイヤのトレッドパターンのような溝が入れられているので、肌への接触面は少なく、あまり汗で不快な思いはしなかった。クロノグラフのプッシュボタンもダイヤモンドヘッドに加工されていて、汗ばんだ指でも難なく操作できる。911カレラSのペダルよりも滑りづらいほどだ。
ポルシェ911カレラSの流線型フォルムを思わせる、やわらかに丸みを帯びたケースデザイン。見やすくも存在感の高いインデックス、タキメーターとクロノグラフを兼任する針の赤、ケースのチタン素材とラバーのストラップのマッチングなど、すべての要素がスポーティにまとまっている。
ローターに加えたひと手間がクルマとのコラボレーションを強く印象づける
このクルマは最高出力が355psと非常に高いが、車両重量が1445kgと軽量なことも特徴だ。時計のほうも同様で、大きなボディながら総重量は99g。これはケース素材にチタンが使われていることと、ストラップにカウチュ・ラバーを使用している恩恵だろう。全体の流れるようなフォルムにも911カレラSのボディに通じるものがある。チタンの色もアントラジット(無煙炭)ラッカーのようだ。
ケース上部とバックルはサテン仕上げで、加工技術の高さがよく出ている。特にバックル表面のサテンの仕上げ方は丁寧な加工の見本というべきレベルだ。このパーフェクトな仕事ぶりは表側だけに限らない。普通は目に留まらないような、内側に折り畳まれる部分にも加工が施してある。こうした丁寧な仕事はうれしい限りだ。一方、時計の顔ともいうべき文字盤は、気合いの入ったややアグレッシブな感じを受ける。黒っぽいリュウズヘッドには新しくなったロゴの「P'」が象嵌で入れられている。四角い字体が印象的だ。文字盤上の数字も同様のテイストで統一されていて、角にごく細やかな丸みをつけたスクエアインデックスもかすむほどの迫力がある。
タキメーターの目盛りは330km/hまで刻まれている
このデザインはダッシュボードを意識したものと思われる。ドイツ車の計器盤に載るにはシックで英国風でさえあるが。何よりもクロームリングで囲んでわずかにくぼみをつけたインダイヤルは、スポーツカーの計器類を如実に連想させる。インダイヤルの内側にはレコード盤状の溝が入れられ、針には控えめに夜光塗料が入っている。タキメーターの目盛りは330km/hまで刻まれているが、911カレラSはそこまで速度を上げられないので、時計とクルマでコンビネーションを楽しむ場合にも、性能は十分全うできるだろう。ちなみにこのクルマは空気抵抗を計算に入れると最高速度は293km/h。それ以上いくと、タイヤのホイールにつられて時計のローターもふっ飛んでしまうかもしれない。
ETA自動巻きキャリバー2894-2に組み込まれたこのローターは、ひとつのアート作品といっていいだろう。チタン製で、タイヤホイールのような形状をしており、スポーツカーのように円錐形のビスを使用している。ブランドロゴが刻まれた重金属のおもりを使用するなど、外観だけではなく巻き上げ効率もよい作りとなっている。
ETAキャリバー2894-2は2892をベースにモジュールを載せたもので、クロノグラフの機構は文字盤側に設置されている。しかし裏蓋側から見ると2892とほとんど変わらなく見える。クロノグラフは垂直クラッチではなくカムで作動する。これはいささかエレガントさに欠ける方式ではある。
タイヤのトレッドパターンのような溝が入ったカウチュ・ラバーストラップ。汗をかいてものっぺりと腕に張り付くことは少ない。また細やかな仕上げが光るチタン製フォールディングバックルは、肌へのあたりがとてもソフトだ。
ポルシェと完全にシンクロするクロノグラフ
クルマの場合は自分で加速・制動・ハンドリングすれば、ある程度性能が判断できるが、時計となると、やはり検査器にかけなくてはなるまい。目指す目的地はウルム。今回の精度チェックをお願いする時計宝飾店ケルナーのある街だ。しかしながら、出てきた結果はあまり喜ばしいものではなかった。最大日差が14秒というのは大きすぎる。3時左のポジションでのデータもかなりのものだ。もっとも、実際は着用時にこの姿勢になることは稀ではあろうが。クロノグラフ作動時の振り角の落ち込みに関してはまずまずのデータであった。
さて価格についての感想だが、64万500円という値段はカウチュ・ラバーストラップのモデルであることを考えると、やや高いようにも思える。しかしハイレベルの仕上げ加工と細部にわたってよくできたデザインを考えると価値は十二分にあるだろう。
わくわくするトリップも終わりの時間がきた。ポルシェ911カレラSにパーフェクトに似合うクロノグラフはやはりこのモデルだろう。くっきりとスポーティでモダン、かつ変に未来的なところはない。機能的で明快なクルマであるポルシェのスピリットは確かに伝わってくる。そして、他ではまず見当たらない鏡面・サテン仕上げのチタンケースなど、ディテールの加工技術も訴えかけるものがある。そのコンセプトは「ポルシェに似合うポルシェデザイン」なのだろう。
スペック
製造者:
エテルナ、Grenchen/Switzerland
Ref.:
6612.11.44.0247
機能:
時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)、30分および12時間積算計、日付表示
ムーブメント:
ETA2894-2(自動巻き)、直径28.00mm、厚さ6.10mm、振動数2万8800/時、スムーステンプ、耐震軸受け(インカブロック使用)、片方向巻き上げ式チタンローター(カーホイールデザイン)、37石、パワーリザーブ約48時間
ケース:
チタン製(鏡面・サテン仕上げ)、ねじ込み式リュウズ、無反射コーティングサファイアガラス(ドーム型)、シースルーバック(サファイアガラス使用、ねじ込み式)、10気圧防水
ストラップとバックル:
カウチュ・ラバーストラップ(天然ゴム製)、チタン製フォールディングバックル
精度安定試験:
(日差 秒/日、振り角)
文字盤上 +2 +3
文字盤下 +1 +3
3時上 +6 +7
3時下 -1 +3
3時左 +13 +15
3時右 0 +1
最大日差 14 14
平均日差 +3.5 +5.3
平均振り角:
平行姿勢 312°306°
垂直姿勢 290°285°
サイズ:
直径42.00mm、厚さ14.85mm、総重量99g
価格:
64万500円
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
記事掲載号
2006年5月号(No.004) 定期購読申込 バックナンバー常設店・掲載されている記事・画像・イラスト・動画などの無断転載を禁止します。
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