【スペックテスト】 グラスヒュッテ・オリジナル パノマティッククロノ

GLASHUTTE ORIGINAL
PANOMATIC CHRONO
厳かに時は流れ。
文:リュディガー・ブーハー/写真:Imasina/翻訳:市川章子
機械式時計の動力伝達を司るゼンマイの巻き上げ機構には、数多の時計師やメーカーの独自性が発揮される。素早い巻き上げと、部品の磨耗に配慮したグラスヒュッテ・オリジナル初の自動巻きクロノグラフムーブメント。その構造と実力にメスを入れる。
○と×
○・知的な自動巻き機構が考案されている
・立体的なデザインの文字盤が革新的
・シリンダー型歯車使用の魅力的なキャリバー
・振り角が安定している
×
・視認性に難がある
クロノス評価
・ストラップとバックル(最高10ポイント) 9pt.
・操作性(5) 5pt.
・ケース(10) 10pt.
・デザイン(15) 13pt.
・視認性(5) 2pt.
・装着性(10) 10pt.
・ムーブメント(20) 18pt.
・精度安定性(10) 7pt.
・コストパフォーマンス(15) 10pt.
合計84pt.
両方向に回転するローターの動力伝達に方向切替カナを複数使うことはせず、構造自体をシンプル化。部品点数を減らすことによって、エネルギーロスの減少、ひいては部品磨耗の抑制にも寄与している。また、香箱中間車の上に設置されたギアが、第二香箱が巻ききらないよう、ブレーキの役目を担っている。
立体的な文字盤は見とれるほど美しい
グラスヒュッテ・オリジナル(以下GO)の比較的新しいライン「パノ」シリーズは、オフセンターダイアルを基本としたアンシンメトリーなデザインを特徴としてきた。すなわち、メインの時・分表示とスモールセコンドは必ず中心から離して置かれて複雑機構のスペースが確保され、さらにこのシリーズのネーミングの元であるGOの典型的な大型日付表示「パノラマデイト」が鎮座するといった按配だ。
ところがパノマティッククロノでは従来の基本パターンから進化して、三次元構造を初採用し、左右対称の文字盤デザインを違和感なくまとめあげている。文字盤の主役は秒カウントのためのクロノグラフリングだ。このリングは3つの小さな脚で支えられ、環状の陸橋のように文字盤からワンフロア上に位置している。この構築的な観点は他のモデルには見当たらない。
グラスヒュッテ・オリジナル初の自動巻クロノグラフ
しかし外観よりさらにスペクタクルなのは、いうまでもなくケース内部。GO初の自動巻きクロノグラフムーブメントCal.95は、新しくて「知的な」巻き上げ構造で、ふたつの長所を備えている。まず第一に、パワーリザーブがほとんどゼロに近くなっていても、小さな力で素早く巻き上がる。このため、机で作業するような動きの少ない場合でも駆動力に不安を感じさせない。そして第二に、駆動に十分なパワーが蓄えられた後も、ゼンマイはスピードを落としつつ巻き上がっていく。
例えばスポーツのような激しい動きの時でもトルクは常に一定の状態を保ち、ふたつの香箱がフルに巻き上がることがないので、ゼンマイが必要以上に磨耗するのを防止できる。巻き上げは両方向へローターが回転し、ふたつの香箱へは異なる伝達比率で動力が伝わる。片方向へ巻き上がるときの比率は1:92、その反対回りでは1:184の比率になる(1:92とはローターが92回転すると香箱真が一回りするという意味)。つまり片側へ回転し続けると1:92の比率で動力が伝わるが、逆へ回ると巻き上げに2倍の時間がかかる仕組みだ。
Cal.95の設計には通算で3年が費やされた
Cal.95の力強い巻き上げは高効率を誇るが、それでも、ふたつの香箱のゼンマイが巻き過ぎの状態になることはない。1:92で巻き上がるローター回転方向へ減速装置が駆動すると、ローターに力強い動きが生じない限り作動しなくなる。巻き上げ比率が1:184の方向へローターが回る時はコンスタントにエネルギーが伝達されるが、複数の減速車によってゼンマイの巻き過ぎを防いでくれる。
クロノスは今回このキャリバーを独占的に検証する初の雑誌となったのだが、GOからテストモデルが貸し出されるのは予定よりやや遅くなった。というのは、Cal.95の設計に通算で3年を費やした設計者のクリスティアン・シュミートヒェンが、ムーブメントの完成間近になって元の構造よりさらに優れたものにする方法を発見してしまったからだ。当初の設計では、左右に動く小さな“フライング式カナ”(遊動カナ=スウィングピニオン)の使用がポイントになっていた。
三次元構造の文字盤。立体的に置かれたリングとその中心点から広がるギョーシェ彫りが特徴的。針がリング下に入ってしまうと視認性は著しく低下してしまう。
ローターの回転方向が変わる時も、エネルギーのロスがほとんど出ない
シュミートヒェンによると「最初の案でももちろん良かったのですが、改良案の方が歯車の数がより少なくて済むのです。したがって無駄な動きも発生しません。ヒステリシス角度(注:ゼンマイにかかる力とトルクの関係をグラフで表した時、図表上に現れる楕円状のループを指す。時計においてはこの角度が狭いと理論上、精度の安定につながる)も20度以下。つまり、巻き上げた分がすぐに伝達され、効率が高いのです」。
このため、ローターの回転方向が変わる時も、エネルギーのロスがほとんど出ないという。方向転換する時のエネルギーのロスは、長らく両方向回転式巻き上げ機構のウィークポイントだった。シュミートヒェンが語るには「さらに良いのは巻き上げの際に機構全体が一斉に動かない点でしょう。巻き上げコハゼの働きで、一連の動きはローテーションで順繰りにバトンタッチされます。そして採用した機構では当初の案より歯車が3個減っています。これ以上減らすのは無理な、ギリギリのところですね」。つまり構造を熟考し練り上げた結果、逆にシンプルになってしまったわけだ。しかし機械においては単純なメカニズムのものほど作動の効果は高い。それにこういった開発には踏ん切りが肝心なのだ。
ツインバレルでありながら、パワーリザーブは「たったの」42時間
次は香箱に話を移そう。当初は大型の香箱を文字盤下の6時位置あたりに置くことを想定していたのだが、時・分のエキセントリックな配置のため、そのスペースが奪われてしまったそうだ。そこでCal.95ではダウンサイズした香箱を2個設置し、同時進行で巻き上がるシステムを採用。こうしてGOでは初のツインバレルキャリバーが誕生した。第一香箱のゼンマイは巻き止まりが生じる手巻き仕様、第二香箱のゼンマイはスベリ板で巻ききらない状態をつくる自動巻き仕様になっている。巻き上げは必ず第一香箱から始まり、ある程度巻き上がった段階で第二香箱へエネルギーが伝達される。
ツインバレルでありながら、パワーリザーブがシングルタイプの自動巻きのように「たったの」42時間(最長44~45時間走行可能)しかないのは、一見意外なように感じるかもしれないが、それは香箱が小さいことに起因している。振動数は今日主流の2万8800/h だが、それ以下に抑えるとパワーリザーブは長くできるものの、同時に歩度調整が難しくなり、安定した精度を保てなくなってしまう。それでもシュミートヒェンがいうには、美観を兼ね備えたムーブメントにするのが目標だったため、チラネジ付きテンプはできるだけ大きくしたかったらしい。Cal.95ではルビーの数も57石と贅沢な作りだ。
中間日差は24時間計測で2.2秒の進みのみ
検査器による精度チェックはミュンヘンの高級時計宝飾店アンドレアス・フーバーにご協力いただいた。パノマティッククロノは理論上、非常にしっかりした一定の振り角であることが分かったが、姿勢差にはかなりばらつきが出た。しかし中間日差は24時間計測で2.2秒の進みのみで、非常に良いデータが出た。着用テストでは筆者自身が3週間にわたって実際に着用し、検証を行った。着用開始から12時間後に3秒の進みが出たが、数日後のデータは驚くべきことに±0となった(クロノグラフ作動なし。毎日8、10、12時間後にデータを記録)。しかし着用時のテストでも姿勢差のデータは検査器と同様な結果を見せた。
操作性についても少々触れておきたい。クロノグラフのリセットは2時位置のプッシュボタンで行うが、これがとてもスムーズな押し心地なのだ。日付修正は周知のようにコレクトボタンで行う。
尾錠もケース素材と同じくプラチナを使用。
この時計は驚くべき構造を内包したひとつのアートだ
パノマティッククロノ最大のウィークポイントは、装着時に浮上する。通常時はそれほどでもないが、クロノグラフ作動時には各ポジションの針がすべて立体リングの下に隠れてしまう時が必ずある。しかも各インダイアルの半径では読み取り時に狭苦しさを感じさせる。39mmというせっかくのケース直径が完全に生かしきれていない。その点、一般的なクロノグラフは時針・分針ばかりではなくクロノグラフ針もセンターにあるので、まずまずの視認性がキープされている。
しかしパノマティッククロノは普通のクロノグラフではない。また、普通でありたくはないのだ。この時計は驚くべき構造を内包したひとつのアートなのだ。実用第一主義でないことは、従来のクロノグラフでは異質なリュウズのカボションにも表れている。そして強気のプライス設定。
一度見ただけで忘れ難い三次元文字盤の華麗な時計を通して得るものは、視覚的に具象化された厳かな時の流れだ。そして最新の巻き上げメカニズムをもって、我々の生きる21世紀の技術の高さを実感するのである。
スペック
製造者:
グラスヒュッテ・オリジナル、Altenberger Str.1,D-01768 Glashutte
Ref.:
95-01-03-03-04
機能:
時・分表示(オフセンター)、スモールセコンド(ストップセコンド仕様)、シングルハンドクロノグラフ(フライバック仕様)、30分積算計、パノラマデイト、日付修正ボタン
ムーブメント:
Cal.95(自動巻き)、直径32.20mm、厚さ7.30mm、両方向回転式スケルトンローター(おもり部分は21Kゴールド使用)、チラネジ付きテンプ、ニヴァロックス1 平ヒゲゼンマイ、ハンドエングレービングのテンプ受け、スワンネック緩急針、振動数28,800/h、テンプ振り角53°、耐震軸受け(インカブロック使用)、ツインバレル(パワーリザーブ約42時間±5%)、57石
ケース:
ツーピースプラチナケース、ドーム型風防(無反射コーティングサファイアガラス使用)、サファイア・カボション付きリュウズ、小判型プッシュボタン(4時位置にスタート/ストップボタン、2時位置にリセットボタン)、日付修正ボタン(10時位置)、シースルーバック(無反射コーティングサファイアガラス使用、5カ所ネジ留め)、3気圧防水、シリアルナンバー入り
ストラップとバックル:
ルイジアナクロコダイルストラップ、プラチナ製尾錠
精度テスト結果
(日差 秒/24時間、振り角)
通常時/クロノグラフ作動時
文字盤上 +7 +4
文字盤下 +4 +3
3時右 +5 +5
3時左 -5 -2
3時上 +9 +8
3時下 -5 -2
最大日差 16 13
中間日差 +2.2 +2.2
中間振り角:
水平姿勢 322゜297゜
傾斜姿勢 290゜272゜
サイズ:
直径39.30mm、厚さ12.80mm
バリエーション:
ローズゴールドタイプあり
価格&問い合わせ
プラチナ609万円(限定200本)、18kローズゴールド 504万円※価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事の抜粋です。
記事掲載号
2006年1月号(No.002) 定期購読申込 バックナンバー常設店・掲載されている記事・画像・イラスト・動画などの無断転載を禁止します。
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