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Chronos日本版

【スペックテスト】 ブランパン/レマン・クロノ フライバック

BLANCPAIN

BLANCPAIN
LEMAN CHRONO FLYBACK

機能性だけにとどまらない矜持

文:イェンス・コッホ(ドイツ版クロノス編集者)/写真:金沢文春/翻訳:市川章子

計測上の必然から生まれたフライバックは実用的な機能でありながら、瞬時に飛んで戻る鮮やかな針の動きなど、舞台鑑賞のような見た目の楽しさも持つ。丁寧な仕上げと高度な技術の融合は、我々にどのような「名舞台」を見せてくれるのか。

○と×:

・大型日付機構搭載の独占キャリバーを使用

・仕上げ加工技術レベルが抜きん出ている

・視認性がパーフェクト

×

・スモールセコンドがない

クロノス評価:

・ストラップとバックル(最高10ポイント) 9pt.

・操作性(5) 5pt.

・ケース(10) 9pt.

・デザイン(15) 13pt.

・視認性(5) 5pt.

・装着性(10) 10pt.

・ムーブメント(20) 17pt.

・精度安定性(10) 7pt.

・コストパフォーマンス(15) 13pt.

合計88pt.


ムーブメント
大型日付表示機構を装備したブランパン専用キャリバー69F8は、コラムホイール式の垂直クラッチスタイル。美麗な仕上がりのみならず、構築も興味深い。プッシュボタンにはねじ込み式を採用。指の引っかかりが良く操作感は良好。また高い防水性の確保にもひと役買っている。

名舞台の条件

 クロノグラフの機能の中でも「フライバック」という名称は、航空的な発想から出た言葉に他ならない。文字通り「飛んで戻る」クロノグラフ針の機構の発明は、パイロットにとって非常にありがたいものだった。航空飛行では運転中のナビゲーションのために、あらかじめ航路全体と、ルート上のチェックポイント間の所要時間を算出しておく必要がある。この運航予定表に従って運転が進められるのだ。離陸後にクロノグラフをスタートさせ、飛行中にミニッツカウンターを見ると、ポイント間の移動がどこまで進んでいるかが判断できる。ポイント通過の予定時刻が近づくと、注意深くチェックし、通過の時点でクロノグラフをリセット/リスタートさせる。ここから次のポイントまでの積算が始まるのだ。


 フライバックの機能はこのリスタートのときに、パイロットの緊張を少し軽減するのに役立っている。運転中は安全上の理由から、運航予定表にチェックポイント通過時間の記入が義務付けられている。その他にもすることでいっぱいだ。コクピット内の計器類が正常に作動しているかどうか常に目を光らせ、高度とコースを正しくキープし、無線交信を行い、運航エリア内の他機に注意して、運航予定表と無線方向探知機、機外の景観から現在地を確認しなくてはならない。つまり左右の両手とも、余分な作業に煩わされずに済めば、そのぶん運転に集中でき、安全性が増すということになる。そしてフライバック機能のないクロノグラフだと、帰零までのほんの少しの間にも目的地までの移動は途切れず進み、飛行時間の計測にズレが出てしまう。というわけで、瞬間的にリセットできるフライバックはパイロットにとっては意義深いことこの上ない機能なのだ。


 急速な場面転換にも即座に対応する、時計という名の劇場に立つ名役者のようなフライバック機能は、コクピットの外ではどのように映えるのだろうか。ブランパンの「レマン・クロノ フライバック」は、数多のクロノグラフの中でもデザインがよく練り上げられている点に特徴がある。全体的にすっきりとフラットで、派手さを抑えてエレガント。ブランパンのパイロットウォッチではおなじみの力強い字体の数字も緻密に考えられた全体のフォルムも、スポーティさに無理がなく、クロノグラフで起こりがちなデザイン上の破綻が見当たらない。レトロな数字に歩調を揃えたクロコダイルストラップにもクラシカルなムードがあふれている。大きさは、ケース直径が40mm、重さは86.5gと、今どきのクロノグラフとしては華奢な部類に入る。地上では、英国のクラシックなスポーツカーを背景にしたスーツ姿に、よく似合うかもしれない。


ケース
風防には両面無反射コーティング加工のサファイアガラスを使用。ガラスの存在がほとんど気にならないほどクリアに見える。大型の日付表示、先端に赤い挿し色を使用したクロノグラフ針も、視認性が高い。ケースは細部にまでよく気配りされた、素晴らしい仕上がり。サイドから見ると完成度の高さがはっきり分かる。

精密な機能と釣り合いのとれた緻密なケースのディテール。

 操作に関しても正統派。プッシュボタンは2時位置がスタート/ストップ用、4時位置のボタンを押すと針は素早くジャンプして帰零する。計測/リセット/再計測はスムーズに行えるのである。プッシュボタンとリュウズはいずれもねじ込み式で、フラットなケースながら防水性は水深100mを誇る。これならば、指を意図せず濡らしてしまった場合でも、プッシュボタンとリュウズからの水の浸入は防げるだろう。操作の際はねじを緩めてから行うのだが、切れ込みの溝が大きめにとってあるので動かしやすい。このクロノグラフはスモールセコンドがないのだが、


 そのぶん、アワーカウンターは12時間と、長い積算が可能だ。だがこのモデルのさらに重要なポイントは、6時位置の日付表示の大きさにある。そもそも日付表示とは、真っ先に追加装備に選ばれる機能だが、レマン・クロノ フライバックではデイホイールの色も黒地に白抜きと、文字盤との調和がとれている。これならば、日付表示が妙に文字盤から浮いて見えることもない。数字の桁の段差もほとんど分からない程度で、かなり斜めから見ても読み取ることができる。リュウズで素早く日付修正ができるので、2~3日使わず止まったときでも煩わしさを感じない。視認性の良さは時刻に関しても、この上ないほどの出来上がりだ。夜光塗料を針と数字に幅広く使っているので、さっと目を走らせただけで時間が把握できる。積算時間についても、クロノグラフ針の先端が赤くマークされていて、判断しやすい。


 だが完璧であるかのように見える文字盤にも惜しいところがある。このクロノグラフの振動数は毎時2万1600回なので、1秒あたり6ステップで針は進むことになる。つまり1秒間は6つの目盛りで仕切られているのが望ましく、少なくとも倍の間隔である3目盛りであってほしい。だがこのモデルでは目盛りが4つになっているのが残念だ。


 さて、文字盤の外に目を向けてみよう。ケースは細部にわたって丁寧な作業ぶりがうかがえる仕上がりだ。特にケース裏側のラグの凹面カーブの表面の滑らかさや、ブランドネームの入れられた側面処理などは、非常に手がかかっている見事な出来だ。鏡面仕上げで丸みを持たせたフォルムのフォールディングバックルも最高の仕上がりで、完璧なまでのケースとの釣り合いを見せる。
 着用感も素晴らしい。ストラップはしなやか、バックルは手首の理想的な位置に収まり、身につけているのを忘れそうなほど快適である。


 ケース裏のシースルーバックを通して、ムーブメントの姿を楽しむこともできる。ちなみにブランパンがシースルーバックを積極的に取り入れたのはわりと最近だ。同社のル・ブラッシュのラインにはシースルーバックは採用されていない。サファイアガラスの下で呼吸するのはキャリバー69F8。ベースはかつて同社の姉妹ブランドとして扱われていたフレデリック・ピゲの佳品キャリバーF185。大型日付表示付きのフライバックキャリバー69F8は、ブランパンのみに使用されている。コラムホイール式垂直クラッチ構造は、手の込んだ細やかな作りだ。


バックル
つややかに磨かれたフォールディングバックル。クロコダイルストラップと調和し、気品が漂う。

価格に見合った仕上げと、高い精度が自慢。

 プッシュボタンは軽やかに動き、クロノグラフ作動スタート時のもたつきがなく、機能性が高い。作動カム式に簡略化された構造の、汎用キャリバーに比べて麗しいことは言うまでもない。各パーツは面取りされ、さらに面取り部分は磨き上げられている。緩急装置やヒゲゼンマイの固定箇所、フライスしたレバー類にも作業レベルの高さがはっきりと表れている。フライバック・クロノグラフという名優が活躍する舞台にふさわしく、上質なスタッフが揃えられているといった状態だ。
 腕時計にとって、何よりも重要なのは無論精度だが、この点についても見目良いデータが出ている。最大日差は通常時で10秒、クロノグラフ作動時では9秒との結果だったが、姿勢によっては0秒を記録し、平均日差は+0・3秒と、優れた成績を残してくれた。


 そして気になる価格は141万7500円。時計界にあふれるフライバック・クロノグラフの中では目立って高価とはいえないものの、やはりなかなかの金額だ。このことからも、大型日付表示のメカニズムは容易に搭載できる簡単なものではないことが察せられる。名優が一流の脚本と演出により、最高の劇場で演ずる演目としては妥当な価格といえるかもしれない。もっともブランパンのフライバックモデルには、このレマン・クロノ フライバックより抑えたプライスのものもあるが、迫力ある大型日付表示とケース裏からムーブメントを眺める愉しみは味わえない。どちらを選ぶか悩ましい限りだが、名舞台を鑑賞する悦楽は、劇場と演目を選ぶところからすでに始まっているのである。

スペック

製造者:
ブランパン:Paudex/Switzerland


Ref.:
2885F-1130-53B


機能:
時、分、クロノグラフ(シングルハンド、フライバック、30分・12時間積算計)、大型日付表示
ムーブメント:69F8(自動巻き、ベースキャリバーはフレデリック・ピゲF185)直径32.00mm、厚さ7.00mm、振動数2万1600/時、スムーステンプ、耐震軸受(キフ使用)、マイクロメーター・スクリュー式緩急調整システム、42石、パワーリザーブ約38時間


ケース:
SS製、サファイアガラス(両面無反射コーティング加工)、シースルー・スクリューバック(サファイアガラス使用)、10気圧防水


ストラップとバックル:
クロコダイルストラップ、SS製フォールディングバックル


精度安定試験:
(日差 秒/日、振り角)
通常時/クロノグラフ作動時

文字盤上 0/+1

文字盤下 0/0

3時上 +1/+1

3時下 -1/-3

3時左 -4/0

3時右 +6/+6

最大日差 10/9

平均日差 +0.3/+0.8

平均振り角:

水平姿勢 316°/305°

垂直姿勢 275°/264°


サイズ:
直径:40.00mm、厚さ:14.20mm、総重量:86.5g


価格:
141万7500円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

記事掲載号

2006年9月号(No.006) 定期購読申込 バックナンバー常設店

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