【スペックテスト】 パネライ/ラジオミールGMT

PANERAI RADIOMIR GMT
イタリア発、42ミリの新テイスト。
文:ヴィトルト・A・ミヒャルツィク/写真:imagina/翻訳:市川章子
大型腕時計の潮流は言うまでもなくパネライが火付け役だ。そのパネライが2004年に発表したラジオミール GMTはエレガントさという妙味と信頼できる精度を持って市場に登場した。ブームに乗っただけのモデルとは一線を画すこのモデルの素性の良さを見てみよう。
○と×:
○・精度が非常に高い
・仕上げ加工がハイレベル
・よく考え抜かれたデザイン
×
・やや高めな価格設定
クロノス評価:
・ストラップとバックル(最大10ポイント) 8pt.
・操作性(5) 5pt.
・ケース(10) 8pt.
・デザイン(15) 14pt.
・視認性(5) 5pt.
・装着性(10) 9pt.
・ムーブメント(20) 14pt.
・精度安定性(10) 9pt.
・コストパフォーマンス(15) 12pt.
合計84pt.
スクリューバックの下には美しく仕上げられたOP XⅢが息づいている。ジャガー・ルクルトキャリバーをベースにしたムーブメントは、大きなケースの内側に収まるとかなり小さく見えてしまうが、精度の信頼性は抜群だ。
大型ケースに付加された「エレガント」という要素。
この何年かの時計界を振り返ると、パネライほど影響力の強いメーカーはなかったように思える。40mmを超える大型サイズを腕に載せることを定着させたのは、このイタリア・メーカーの功績が大きい。パネライのマーケティングマネジャーは、ミリタリーの世界と結びついた時計芸術というテーマを掘り起こし、他ブランドとは根本的に異なる方向性を探った。そのうえ、シンプルそのものの形状で他社を大きく引き離して前に出るということをやってのけた。今や特徴的なリュウズガードは、パネライの典型的な要素として認知されている。もっとも、パネライらしさを代表するこのパテント取得済みのディテールは、ルミノール・シリーズにのみ使用されているメカニズムで、ラジオミールにはない部分だ。
今回のテストウォッチであるラジオミールGMTは、今までのパネライモデルとは違って、我々テスト班の腕に載っているときも、ややもすればパネライではないかのような錯覚に陥らせた。落ち着いて考えてみて「そういえばこれはスイスメイドの、今をときめくイタリアンウォッチブランドのワンモデルだっけ」と、1拍遅れて思い出す始末。ではこの時計は地味だということなのだろうか? そうではなく、強烈な個性を誇るパネライも、例のリュウズガードなしではまるで違った表情を見せるということを認識すべきだろう。
ダイバーズウォッチではないが、躊躇せず水の中に入っていける
ラジオミール・シリーズは「スポーティ」というよりは「エレガント」が前面に押し出されている。例えば、風光明媚な沿岸の地方都市リミーニよりは、アーバンな賑わいを見せるミラノをショッピングで回るときに似合うような出来だ(訳者注:リミーニはアドリア海沿岸の小国サンマリノの近郊。自然の風景が美しい)。あるいはインターコンチネンタルあたりのビジネスクラスで世界を飛び回るようなシーンに似つかわしいというべきか。なにしろ、このモデルは24時間表示の回転式インナーリングを装備したGMTなのだ。
インナーリングは2時位置の専用リュウズで、一時間刻みで動かすことができる。4時位置のメインリュウズともどもねじ込み式で、100m深水の防水性が保証されている。ダイバーズウォッチではないにもかかわらず、躊躇せず水の中に入っていけるのである。文字盤には防水性の高さに釣り合う視認性も備わっている。パネライの典型的なバトン針や数字、矢印形のGMT針は、夜光塗料のスーパールミノヴァをまとい、インナーリングは12時と24時部分が光る。バーインデックスも見間違いがほとんどないような長さで満足できる。
サファイアガラスの日付表示用のルーペの厚みを内側に持たせている
昨今の潮流であるレトロ調かつノスタルジックなデザインとは逆のベクトルを示すのは、最新技術を駆使した各パーツの仕上げ加工だ。例えばケースは縁と角をきめ細やかに面取りし、ふくらみを持たせて特徴を際立たせている。リュウズもケースと同様に丁寧な仕上がり。ポジショニングもよく考えられていて、着用時も手の甲に当たりづらい。不安定な要素は一切なく、操作も楽々。高さのあるネジ山はパイプの上に置かれていて、存分に巻くことができる。リュウズは両方向に巻くことができるため、数字がきっちりと印刷されたデイホイール使用の日付表示の修正も簡単だ。
文字盤の上には1・5mm厚のサファイアガラスがぴたりとはめられているが、ここで評価したいのは、日付表示用のルーペの厚みを内側に持たせている点だ。小窓の枠のさらに下に置かれているデイホイールとの距離が少ないので、小さく印刷された数字も非常に読み取りやすい。風防の表側にレンズの隆起があると破損の危険も大きくなるが、これだと表面のフラットさがキープされ、煩わしさも感じない。
ひとたび裏側に目を移すと、現れるのは外側のはっきりした個性とはうってかわる、繊細なムーブメントだ。その直径は30mmをわずかに下回る。そしてその周りには、ペルラージュの輝きが美しい幅広の中詰めリングが配置される。このリングはケースに3カ所ビス留めされていて、ムーブメントのサイズをカバーしている。そしてムーブメントはリングに2カ所固定されて、デリケートなメカニズムは衝撃から守られている。
メインリュウズには歴史的なロゴが入り、もう片方のリュウズにはGMTと明記されている。大型リュウズは使いやすい操作感を持っている。
搭載キャリバーはジャガー・ルクルトの897ベース
搭載キャリバーはOP XⅢ。ベースキャリバーは同コンツェルン傘下の系列メーカーであるジャガー・ルクルト(以下JLC)の897だ。このキャリバーはJLC889の系統だが、片方向巻き上げ式のローターを使用している点が大きな相違だ。ラジオミールGMTのローターは一見するといかにも軽そうである。しかしそれゆえに、わずかな動きでも回転し、香箱へエネルギーを伝達できる。連続装着した場合、パワーリザーブはほぼ37時間。緩急調整システムはJLC889と同じ方式を採用し、テン輪の外側には調整ネジが4つ装備されている。
しかし889とは異なる配置になっていて、その結果、他の部分にも構造的な違いがいくつか見られる。キャリバー897は889との共通点の多いムーブメントではあるが、ちょっとだけ変化を持たせて別キャリバーに仕立ててあるようなものとは異なるのだ。ラジオミールGMTに搭載されるキャリバーOP XⅢには、さらにスモールセコンドと24時間表示が加えられている。ムーブメントの厚さは5・35mm。昨今ではまだ薄い部類に入るが、これがケースをまとうと15mmに変貌する。このあたりはおそらく技術的必然性より形状の全体的調和が先に立ったからなのだろう。
ムーブメントは仕上げ加工に優れ、素直に楽しめる見目の良い出来だ。よくぞシースルーバックにしてくれたと、パネライのデザイナーにメールでお礼のひとことでも言いたいほどである。いかにも大量生産お定まりの表面加工しか施されていない製品が市場に溢れているなか、ブリッジのコート・ド・ジュネーブやローターの装飾といった部分に技術の違いが表れるのである。35石のルビーとブルースチールネジも華やかさを添えている。小さなテン輪と釣り合いのよいアンクルも、繊細さを引き立てている。ムーブメントのこの構成を見ても、ラジオミールGMTはエレガントという要素を最優先に考えているのが実感できる。
検査器での平均日差はわずか+0・3秒
さて今回の精度テストも、ミュンヘンのアンドレアス・フーバー時計宝飾店にご協力いただいた。検査器にかけてのチェックでは、ムーブメントの外観の良さにたがわない素晴らしいデータが出た。6姿勢すべてのポジションともクロノメーター規格内の数値が出て、進みも遅れも4秒以内に収まった。平均日差は検査器ではわずか+0・3秒、2週間の着用期間を経ても-1秒と記録されている。振り角は全姿勢の平均値が289°とテンプの動きにムダが少ないことが分かった。
着用感は、ストラップに手縫いのカーフが使われているため肌への当たりがソフト。手首になじみやすく心地よい。バックルはミリタリースタイルとはかけ離れた、やはりエレガントな作りだが、か細くはなくしっかりしている。しかし、留めるときの折りたたみは手軽に行えるが、外すときには少々コツが要る。また、ツク棒とストラップの穴も特殊な形のため、穴を増やして微調節しづらい。バネ仕込みのプッシュボタンでロックされる仕組みではないため、不意に手首を曲げたときなどに外れやすく、プッシュボタンロック式に比べて消耗が早いのも難点だ。しかしバネを仕込んでほしいのは、バックルよりラグのほうだ。バネ棒使用の形状だと、ストラップ交換は断然楽なはずだ。
フォールディングバックルも全体のエレガントさに合ったデザイン。
27年の歳月。進化の跡が確認できる
このように着用面では不便な点がいくつかあるものの、誰の手首にもそれなりにシックに映えるのは評価すべきだろう。ケースは見た目の迫力があるが、腕に載せるとバランスの悪さはなく、オーダーメイド並みの落ち着きが漂う。とはいえケース厚は15mm。シャツの上から巻くか、ゆったりとしたカフの下に入れるかは選択の分かれるところだろう。熱狂的とも言える人気を誇るパネライではあるが、このモデルの価格を見て購入するかどうか逡巡する人も少なくないだろう。やはり86万1000円というのは気軽に決心がつく金額ではない。
さて、この数年でアッパークラスのカルトブランドとして定着したパネライだが、次なる臨界点突破は純正マニュファクチュールへの移行にある。現在、他社から仕入れたムーブメントに手を入れて自社技術を加えたうえで使用しているのは、順調に準備が進んでいる証と見てよいのかもしれない。パネライのスイス活動拠点のヴィラール・シュル・グラーヌの製造現場に優れた時計師を抱えているであろうことは、テストモデルの出荷時最終調整の確かさからも明らかだ。
このモデルには伝統とカルトの価値がある。そして手にしたユーザーは、イタリアン・エレガンスの愉しみを味わえるのである。
スペック
製造者:
オフィチーネ・パネライ、Villars sur Glane/Switzerland
Ref.:
PAM 00184
機能:
時、分、秒(センター式、ストップセコンド仕様)、日付表示、セカンドタイムゾーン
ムーブメント:
OP XⅢ(自動巻き、ベースキャリバー:ジャガー・ルクルト JLC897)、直径29.95mm、厚さ5.35mm、振動数2万8800/時、グルシドゥアテンプ、耐震軸受け(KIF使用)トリオヴィス緩急調整システム、片方向巻き上げ式ローター、35石、パワーリザーブ約37時間
ケース:
SS製スリーピースケース、サファイアガラス、シースルーバック(サファイアガラス使用、ねじ込み式)、10気圧防水
ストラップとバックル:
手縫いカーフストラップ、フォールディングバックル
精度テスト結果:
(日差 秒/日、振り角)
文字盤上 +1
文字盤下 +2
3時上 -4
3時下 +4
3時左 +1
3時右 -2
最大日差 8
平均日差 +0.3
平均振り角:
平行姿勢 309°
垂直姿勢 279°
サイズ:
直径42.00mm、厚さ15.00mm、総重量90g
特記事項:
年1000本限定
価格
価格:86万1000円*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です
記事掲載号
2006年5月号(No.004) 定期購読申込 バックナンバー常設店・掲載されている記事・画像・イラスト・動画などの無断転載を禁止します。
・すべての著作権は株式会社シムサム・メディア、またはそれぞれの著作権者に帰属します。






