【スペックテスト】 A.ランゲ&ゾーネ/1815クロノグラフ
A.LANGE&SOHNE
1815 CHRONOGRAPH
ラグジュアリーの本質とは
文:リュディガー・ブーハー(ドイツ版クロノス編集長)/写真:imagina/翻訳:市川章子
ドラマティックなエピソードを数多く持ち、コンプリケーションを得意とするA.ランゲ&ゾーネだが、実はクロノグラフモデルはまだわずか。銘機ダトグラフの弟格にあたる1815クロノグラフはクラシカルな雰囲気が漂うが、尖鋭的な機構を内部に抱えている。
○と×:
○・ムーブメントの設計・仕上がりが卓越している
・技術の高さが至るところに表れている
・最高級の風格
×
・パワーリザーブが短い
・精度がややもの足りない
クロノス評価:
・ストラップとバックル(最大10ポイント) 10pt.
・操作性(5) 5pt.
・ケース(10) 10pt.
・デザイン(15) 13pt.
・視認性(5) 4pt.
・装着性(10) 10pt.
・ムーブメント(20) 19pt.
・精度安定性(10) 7pt.
コストパフォーマンス(15) 12pt.
合計90pt.

まさに目の保養となるキャリバーL.951.0は、独特の構造と卓越した技術によって支えられている。ふんだんに使われているルビーやブルースチールネジ(34石)、コート・ド・ジュネーブやペルラージュといった装飾も細やかで、見る者を圧倒する迫力すら感じさせる。これより美しいムーブメントを作り上げるのは不可能だろう。細やかな装飾類は、もはや芸術の類である。
おとぎ話のような復活劇を見せたドイツの歴史あるブランド。
ランゲの歴史には、なんとなく童話めいたところがある。栄華を極めた時計王国のお世継ぎが、悪しき権力に本拠地を奪われすべてを失い、40年の亡命生活の後、お家再興を果たしたというのは、あたかもおとぎ話の如きシチュエーションだ。現実世界で世継ぎの王子は会社を新たに設立し、能力自慢の一流の男たちのサポートのもと、たちまちかつて以上の輝かしい栄光を取り戻している。
ウォルター・ランゲがギュンター・ブリュームライン、ハルトムート・クノーテとともに1994年に新生ランゲの最初の時計コレクションを発表してから、早くも12年の歳月が流れた。この発表会では時計界に完全に新しい顔を打ち立てた「ランゲ1」、シンプルな手巻きの「サクソニア」、アーチ形の「アーケード」が紹介された。これらのモデルに搭載された大型日付表示「アウトサイズデイト」は、その後すぐに多くのメーカーに模倣されている。
そして忘れてはならないのがトゥールビヨンの「プール・ル・メリット」。息をのむほどの仕上がりは息をつく間も与えず、直ちにセンセーションを起こして大成功を導いた。ゼロからのスタートでまたたく間にトップクラスとなり、君臨し続けている跳躍の見事さも、やはり夢物語かのようなエピソードだ。しかし、これらの成功はもちろん魔法によるものではなく、人々の商業的な努力と、なによりも製品そのものが引き起こした現実なのだ。
完全なる調和の賜物。
ランゲ1の印象に代表される新生ランゲ時計の特徴は、その信じ難いほどの完全性だ。匠の技を極めたメカニックは、知的な構造とより細やかに洗練された気品ある仕上げ加工に結びついて、ひとつのデザイン美学を完成させている。これは技術と美観の織り成すシンフォニーだ。現代のランゲにおける、製品開発の父的存在であるラインハルト・マイスが創作のモットーとしていたのは「始めにデザインありき」だった。
ひとつの時計を作るとき、まず最初に望ましい外観はどうあるべきか決めてしまってから、それに技術を合わせて構造を考えていくのだ。このデザイン先行のやり方はもちろん、そのたびにそれぞれのモデルに合わせた専用ムーブメントを作ることが前提となっている。これこそが、真のラグジュアリー“Made in Glashutte, Germany”の誇りなのだ。このように総合芸術の結実ともいうべき作品はランゲ1を皮切りに、サクソニア、1815、ランゲマティック、ダトグラフと増えてゆき、ランゲ・コレクションを作り上げてきたのだ。
1815にはベーシックな手巻きのスモールセコンドタイプと、同じく手巻きでスモールセコンドとパワーリザーブインジケーターが付いたタイプ(「1815アップ&ダウン」)の2モデルがあったが、04年よりさらに自動巻きとクロノグラフの2モデルが加わっている。
今回のテストモデルである1815クロノグラフは、手に取ってよく見ようと指に触れるか触れないかのうちに、たちまち気に入ってしまうような代物だ。プロポーションの良いパーフェクトな仕上がりのケース、とてつもなくきっちりとしたバックルとツク棒で構成される尾錠は、思わず撫で回したくなるほど。そして竹斑(四角い筋目)の大きいクロコダイルストラップは、このモデルの登場以前にテストウォッチとしてお借りした、多くのメーカーのモデルが採用している一級品ストラップよりも、さらに一歩上をゆく素晴らしさだ。

ケースは鏡面仕上げとサテン仕上げを交互に組み合わせている。そのコンビネーションの美しさは時計をサイドから見てみるとよく分かり、極上の細やかさにうっとりさせられる。A.ランゲ&ゾーネの仕事の細やかさは、こうした部分にもよく表れている。黄金分割により端正なたたずまいにまとまっている文字盤。ふたつのインダイアルや針のそれぞれが主張をしすぎず、しっかりした視認性と存在感を醸し出す。眺めることで落ち着きをもたらすこの“調和”は見事だ。
細部に至るまでドイツらしい客観性が貫かれている。
スリーピースケースは滑らかなベゼル、サテン仕上げのボディ、縁を面取りしてまばゆいばかりに磨き込んだ裏蓋で構成されている。裏蓋は中心のサファイアガラスを持ち上げるように支えていて、銘やシリアルナンバーなどがエングレービングされ、純度750のホワイトゴールドを表す刻印も入っている。ランゲの提示するモデルはどのディテールを見ても、この価格帯の高級品としての期待を裏切ることがない。
非常に完成度の高いフィニサージュには、細部に至るまでドイツらしい客観性が貫かれている。しかしそこには今や時代遅れになりかけた、切り捨てによる合理主義ではなく、物作りと時計芸術、そして受け手である消費者へのリスペクトがある。客観的視点ではあっても実用一点張りではないのだ。ムダな派手さは追わないが、地味なだけの芸のない控えめさではなく、ましてやナンセンスなだけの技術自慢でもない。ランゲに存在するのは、意義のあるラグジュアリーである。
今回のテストモデルの1815クロノグラフのデザインを簡単に説明しよう。アラビア数字は今までと共通しているが、レイルウェイ・トラックは外されている。「アップ&ダウン」で4時位置と8時位置に置かれていたインダイアル(スモールセコンドとパワーリザーブインジケーター)には、30分積算計とスモールセコンドが配置され、それぞれ数字の3と9にややかぶった格好になっている。どちらかというと、このふたつのインダイアルよりパルスメーターの目盛りのほうが、クロノグラフらしさをより強調し、似たようなスタイルを持つダトグラフのタキメーターの目盛りを思い起こさせる。

きっちり仕上げられた尾錠はストラップとともに堂々たる風格を見せる。また、クロコダイルレザーの竹斑(模様)もはっきりしており、上質さを感じさせる。
黄金分割によって際立つ文字盤の完全なる調和。
それでいて文字盤全体にまとまりの良さを感じるのは、ラインハルト・マイスがおそらく黄金分割の法則に従って位置取りを決めていったからだろう。これは簡単にいうと、文字盤全体と分表示トラックを境にした内側のエリアの対比と、トラック外側エリアと内側エリアの対比を、等格に捉えてボリュームを整えるということだ。ちょっと言葉の説明では把握しづらいかもしれないが、理論はともかくとして、黄金分割だと人間の目に直覚的に心地よく、美しく映るのである。
確かなムーブメントを包み込む完全な調和。これこそがランゲの持ち味であり、1815クロノグラフにも踏襲されている、価値観なのである。
スペック
製造者:
A.ランゲ&ゾーネ:Glashutte/Germany
Ref.:
401.026
機能:
時、分、秒(スモールセコンド、ストップセコンド仕様)、クロノグラフ(シングルハンド、フライバック 30分積算計=プレシジョン・ジャンピング・ミニッツカウンター)、
ムーブメント:L.951.0(手巻き)、直径30.60mm、厚さ6.10mm、振動数1万8000/時、チラネジ付きグルシドゥアテンプ、ニヴァロックス1ヒゲゼンマイ(ハイエンドカーブ)、耐震軸受(インカブロック使用)、スワンネック緩急針(調整システムは特許取得)、ハンドエングレービング入りテンプ受け、34石、パワーリザーブ約36時間、総パーツ数320点
ケース:
18KWG製、サファイアガラス(両面無反射コーティング加工)、シースルーバック(サファイアガラス)、裏蓋は6カ所ビス留め、3気圧防水
ストラップとバックル:
クロコダイルストラップ(手縫い)、18KWG製尾錠
精度安定試験:
(日差 秒/日、振り角)
文字盤上 +2/+2
文字盤下 +3/+3
3時上 -5 /-7
3時下 0/-4
3時左 -5 /-7
3時右 0/-7
最大日差 8 /10
平均日差 -0.8/-3.3
平均振り角:
水平姿勢 -/-
垂直姿勢 -/-
サイズ:
直径:39.00mm、厚さ:10.80mm
価格:
411万6000円
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
記事掲載号
2006年7月号(No.005) 定期購読申込 バックナンバー常設店・掲載されている記事・画像・イラスト・動画などの無断転載を禁止します。
・すべての著作権は株式会社シムサム・メディア、またはそれぞれの著作権者に帰属します。






