【スペックテスト】 ヴァルカン/アビエーター GMT

VULCAIN DESIGN AVIATOR GMT
実用アラームの心意気
文:イェンス・コッホ/写真:imagina,金沢文春/翻訳:市川章子
時計師の熱意により、現在では実に多彩な機能を持つ腕時計。しかし、付加されていれば便利な機能でも、価格が現実的な範疇を超えてしまったら、選択肢の俎上には載せられない。アラームウォッチの第一人者として知られつつも現実的な価格を提示するヴァルカン・アビエーター GMT、その出来を探る。
○と×:
○・アラームの音量が大きい
・まとまりのよいデザイン
・伝統ある自社ムーブメント
×
・日付表示がない
・視認性に改善の余地あり
クロノス評価:
・ストラップとバックル(最大10ポイント) 7pt.
・操作性(5) 4pt.
・ケース(10) 7pt.
・デザイン(15) 13pt.
・視認性(5) 3pt.
・装着性(10) 8pt.
・ムーブメント(20) 14pt.
・精度安定性(10) 7pt.
・コストパフォーマンス(15) 14pt.
合計77pt.
何度もキャリバー名が変わり現代に蘇ったクリケット・ムーブメントV-10。個性的なブリッジが特徴的だ。裏蓋はスナッチバックを採用。三重構造の共鳴板の音色を余さず響かせるため、孔が開いている。
紆余曲折を経てヴァルカンのアラームが復活
現在、腕時計の価格は上昇の一途を辿っているように感じる。そんな中、復活を果たした懐かしのヴァルカンが、十八番のアラームウォッチ・クリケットを「アビエーター GMT」として、手ごろな価格で登場させた。このモデルは1950年代のパイロットウォッチを受け継いだデザインを採用している。初代クリケット・ムーブメントが登場したのは47年だが、当時を彷彿とさせる雰囲気が漂う。
クリケットの過去はヴァルカンブランドの歴史とシンクロして、少々込み入っている。クリケット・ムーブメントは手巻きキャリバー「ヴァルカン120」として63年まで生産されていた。その後ヴァルカンはレビュー・トーメンを含めた何社かのメーカーとともに統合され、マニュファクチュール・ドロロジュリー・スイス・レユニエ社の名の下、「MSR S2」として73年まで製造された。
さらに時代推移に伴って、グループ傘下の時計はすべてレビュー・トーメン・ブランドにまとめる決定が下され、キャリバーは最終的に「レビュー RT80」と名を変えるに至った。そしてヴァルカンが新生ブランドとして02年に復活してから、クリケットキャリバーは 「V-10」という名で生まれ変わったのだ。
コオロギを思い出させる音色は、特許取得の共鳴板の賜物
アラームウォッチにも様々なスタイルのものがあるが、アビエーター GMTは独特の個性を持ち、他社の多くのアラームモデルとは一線を画している。というのもヴァルカンは一貫してパイロットウォッチを製造し続けたメーカーであり、クリケットも飛行中にコクピットの中でヘッドセット(ヘッドホン)を着けた状態で、アラーム音が聞こえることを前提としている。つまり音量が大きいのだ。
このアラームは寝起きの悪い人の目覚ましとしても使い道がある。鳴子を想わせるとびきり大きなアラーム音は15秒間鳴り続け、たいていの人間なら鳴り終わる前に起きられるだろう。クリケットはその名(英語でコオロギの意)が示すように虫のような音質を持っているが、その理由は構造にある。反響板が三重になっていて、真ん中の板から突き出た軸がムーブメント本体につながっているのだが、この軸にハンマーが働きかける仕組みになっている。ハンマーをムーブメントの外側の方向に動かす構造を採用しているメーカーもあるが、その場合空間は狭く、音の響きは必然的に小さくなってしまう。反響空間にゆとりを持たせたクリケットの構造は、アラームとして確実な手法であるといえるのだ。
夜光塗料が針にしか使われていないため、暗い場所での視認性にやや難を感じるだろう。しかし、24時間表示の18時から6時は黒くなっており、感覚的に昼夜の区別はしやすい。ここら辺の表示方法はパイロットウォッチを製造していたヴァルカンならでは。
追加されたリュウズはローカルタイムゾーンリング設定用
60年前の46年に特許を取得した構造を持つ、このクリケット・ムーブメントは、02年の再スタートを機により細やかにモディファイされた。耐震軸受にはインカブロックを使用。磨耗を均一にすることで安定した振り角をキープし、精度が向上した。アラーム時刻設定の機構にも工夫が加えられている。かつてはプッシュボタンとひとつのリュウズだけで時計全体をすべて操作するようにしていたが、新しいモデルでは、ローカルタイムゾーンリングの設定用にリュウズがひとつ増えている。真ん中のリュウズは普通に巻くとメインの香箱へのエネルギーがチャージされ、逆方向へ巻くとアラーム用の香箱にエネルギーが蓄積される仕組み。長針・短針の針合わせはこのリュウズを一段引いて第2ポジションで行うが、針は逆回りには動かないようになっている。
そしてプッシュボタンを押すとリュウズは第3ポジションまで飛び出し、この位置でアラーム時刻の設定が可能になる。この場合も針はやはり後戻りできないようになっている。リュウズを押し込んで再び最初の位置に戻すと、アラーム機能の作動が始まる。設定時刻になるとアラーム音が鳴り響くが、鳴っている間に音をストップする場合は、プッシュボタンを押せばよい。時刻設定リングは10分刻みに区分されているが、2~3分の幅の細かさまで設定が可能だ。
だがこのモデルはストップセコンド仕様になっていない。さらに日付表示もないのは惜しいところだ。しかし、04年に登場した別キャリバーのクリケット・ムーブメントでは日付表示が加えられており、今後の発展性を窺わせる。
直径42mmという大型サイズだが、出過ぎたところはなく好感が持てる
今回お借りしたテストウォッチの文字盤はシルバーバージョンだった。針もシルバーなので、若干メリハリがないかもしれない。視認性を考えれば、文字盤はブラックバージョンのほうが優れているが、いずれのバージョンでもインデックスに夜光塗料が使われていないため、周囲が暗い場合は時刻が読み取りづらいだろう。 文字盤にはGMTと記載されているが、これは少し紛らわしさを感じる。なぜなら、本来GMTウォッチに備わっているべきセカンドタイムゾーンがこのモデルにはないからだ。ローカルタイムをチェックする場合は、リングを動かして都市名をホームタイムの長針位置まで持って来たうえで読み取らなくてはならない。これはこのムーブメントの構造上、制約があるからだろう。
しかしながら、黒く色分けされたナイトゾーンは文字盤上にうまく収まっていて、すっきりとまとまりが良いデザインに仕上がっている。サンレイ装飾研磨の入った文字盤を地に、アップライトのアラビア数字とくさび形インデックスもよく調和している。直径42mmという大型サイズだが、出過ぎたところはなく好感が持てる。ケース厚も必要以上のごつさは感じられず、エレガントで薄く見えるほどさっぱりと仕上げられている。
裏蓋は滑らかで、しなやかなストラップとともに腕への当たりがよく、着用感は心地よい。だが、反響板からムーブメントへつながる軸を内包する構造でありながら、スナッチバックなのは改善の余地ありだろう。
しっかりした作りのフォールディングバックルは、両サイドを押さないと開かない。間違いが起きづらい構造だ。
ケースの裏蓋をひとたび開けると喜ばしい限りの光景が目に飛び込んでくる
フォールディングバックルの縁は、もう少し鋭さを抑えた仕上がりならば、さらに良いだろう。しかし厚さがあるだけに頑丈な作りで、左右両サイドからのプッシュパーツでしっかり留められているため、不用意に開くことがないように考えられている。クロコダイルストラップは断ち切りにした縁を塗りで仕上げたスタイル。テストモデルでは斑(天然の筋目)がくっきりしていないため、見栄えがいまひとつだったのは残念だ。
さて、肝心の精度だが、着用時は日差+1秒というごくわずかな進みが見られただけだったが、検査器では完璧とはいえない結果が出た。ひとつのポジションで15秒もの差が出てしまったのは、やはり残念。力強い振り角も安定性に欠けたデータが出ている。
ところが、ケースの裏蓋をひとたび開けると喜ばしい限りの光景が目に飛び込んでくる。ブリッジのサテンや歯車のサンレイ装飾にブルースチールネジが映え、エングレービングされた文字はゴールドで仕上げられている。これでブリッジなどの縁が研磨されていれば、さらに良いのだが。
このムーブメントは、主動力用とアラーム用のふたつの香箱の間にある切り替えレバー受けやS字形のテンプ受け、やや高い位置に置かれた輪列受けなどの配置が興味深い。インカブロックを導入し、かつてのものに比べてより細やかな作りになったものの、全体としてはシンプルな仕上げといえる。だからこそ、他のブランドのアラームウォッチの半額に近い30万7650円という価格が実現できたのだろう。そういう意味でも、アビエーター GMTには他にない価値がある。
アラーム付きで、しかも自社ムーブメント搭載のモデルでは、ここまでリーズナブルなものは見当たらない。そしてパイロットウォッチのデザインを存分に生かしたデザインは、ヴァルカンならではの魅力といえるだろう。
スペック
製造者:
ヴァルカン、LeLocle/Switzerland
Ref.:
100108027 LF
機能:
時(24時間表示)、分、秒(センターセコンド)、可動式ローカルタイムリング、アラーム
ムーブメント:
V-10(手巻き)、直径28.00mm、厚さ5.60mm、振動数1万8000/時、スムーステンプ、耐震軸受(インカブロック使用)、エクゾマティックシステム、17石、パワーリザーブ約42時間、総パーツ数157点
ケース:
SS製、サファイアガラス風防(ドーム型、無反射コーティング加工)、ねじ込み式リュウズ、スナッチバック、10気圧防水
ストラップとバックル:
クロコダイルストラップ、SS製フォールディングバックル
精度安定試験:
(日差 秒/日、振り角)
文字盤上 +11
文字盤下 +8
3時上 +7
3時下 +3
3時左 +12
3時右 -3
最大日差 15
平均日差 +6.3
平均振り角:
水平姿勢 323°
垂直姿勢 326°
サイズ:
直径:42.00mm、厚さ:13.30mm、総重量:109g
価格:
30万7650円
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
記事掲載号
2006年7月号(No.005) 定期購読申込 バックナンバー常設店・掲載されている記事・画像・イラスト・動画などの無断転載を禁止します。
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