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Chronos日本版

【第2特集】 2007年7月号(No.011) いま、香箱の中で何が起きているのか?

バレル

いま、香箱の中で何が起きているのか?

精度との蜜月、ロングパワーリザーブと多バレル

吉江正倫:写真/広田雅将:文

ロングパワーリザーブ。携帯時計の黎明期に生まれたこの機構が近年、新しいトレンドを孕んでいる。香箱の増加と安定した精度の確保。一見すると関連のなさそうなふたつの要素の、親密なる関係性をひも解いてみよう。

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長い時を経てひとつのかたちに収斂した、ロングパワーリザーブの考え方

 異論を承知で言うならば、機械式時計の精度を変える原因は、大別すると3つに絞られる。温度の変化、姿勢の変化、そして香箱内部にあるゼンマイのトルク変動である。

 温度変化による精度差は、現在、大きな問題ではなくなった。なぜならば、1913年にエドワール・ギョーム博士が、温度が変化しても弾性が変わりにくい合金、エリンバーを発明したからである。この素材をヒゲゼンマイに使うことで、機械式時計は温度の変化に強くなる。現代の機械式時計の多くは、エリンバーの改良版であるステンレススティール合金製のヒゲゼンマイを載せている。やはり温度変化に強いベリリウム合金製のテンワと組み合わせることで、温度変化による誤差は極めて小さくなった。

 姿勢差による誤差は、いまだに克服できていない課題だ。解決法として広く知られているのはトゥールビヨンである。これはテンプを載せたキャリッジを回転させることで、姿勢差による誤差を小さくするものだが、機構自体が高価なうえ、キャリッジが重いと、それ自体が精度を悪化させてしまうという弱点を持っている。

 では、ゼンマイのトルク変動はどうだろうか。ゼンマイで動く玩具を例に考えてみよう。ゼンマイを巻くと最初は勢いよく動くが、やがて動きが遅くなり、最後には止まってしまう。機械式時計も同じだ。ゼンマイを巻き上げるとテンプは勢いよく振れるが、やがて弱くなり、最後には止まる。しかし機械式時計はゼンマイで動く玩具よりもはるかに長時間、安定して動く。その理由は丸いテンプにある。理屈では、ゼンマイがほどけてテンプの振り角が落ちても、時計の精度は一定に保たれる。いわゆる「振り子の原理」は、丸いテンワにも当てはまるわけだ。

「振り角を落とさなければいい」という発想

 しかし物事は理屈どおりにはいかないものだ。実際には、ゼンマイがほどけて振り角が落ちると精度は必ず悪影響を受ける。だからこそ、振り角が落ちても精度が狂いにくい=高い等時性をもたらすフリースプラングや巻き上げヒゲ(ブレゲヒゲ)を、各メゾンは採用するのである。等時性はデテント脱進機や「アオリ」などでも得られるが、いずれも〝振り角が落ちたときの対症療法〟にしか過ぎない。

 一方で〝振り角を落とさなければいい〟という発想もある。もっともポピュラーな機構は自動巻きだろう。ゼンマイが常に強く巻き上げられた状態にあればテンプの振り角は落ちにくくなり、時計の精度は安定する。古典時計ファンにはお馴染みのフュージーや巻き止め(マルテーゼ・クロス)、ルモントワールなども、振り角を落とさないために考案された機構に分類できる。

 だが自動巻きよりもっと簡単に、精度を安定させる方法がある。それが本企画で取り上げるロングパワーリザーブだ。ゼンマイのほどける時間が伸びると時間ごとのトルクの落ち込みは小さくなる。その結果、テンプの振り角は下がりにくくなり、精度は安定するという考え方だ。しかしながら、精度とロングパワーリザーブが結びつくのは近代の話である。その前に、まずロングパワーリザーブが辿った歴史を簡単に振り返ろう。

続きは『クロノス日本版』2007年7月号(No.011)でお楽しみ下さい。

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