アーカイブ

Chronos日本版

【第2特集】 2008年3月号(No.015)メイド・イン・スイスの定義

メイド・イン・スイスの定義

メイド・イン・スイスの定義

吉江正倫:写真/菅原 茂:取材・文/スイス時計協会:取材協力

賛成52対反対8。スイス時計協会が2007年6月28日の総会で「スイスメイド(SWISS MADE)」呼称の規定強化をめぐり採決した結果である。スイス国内の時計関連企業の約500社、90%が加入するスイス時計協会の60人の理事の大半が改定に賛成票を投じたのだ。いまSWISS MADE表記に何が起こっているのだろうか。定義に立ち返って考えてみたい。

スイス=時計のイメージを世界に定着させた国家的ブランド力

 ふだん何気なく目にする、文字盤に記されたSWISS MADEの文字の背後に、どのような意味を読み取るべきだろうか? 「スイスの時計だからスイスメイドなのは当然。スイスの時計メーカーがスイスで作った、原産地に間違いのない時計」と、だれでも思うはずだ。たとえば「ドイツ車=高級車」という単純な図式でとらえるのと同レベルの一般通念としては、それでもかまわない。スイスが時計の品質を保証している印象を与え、全世界の消費者に安心感をもたらしてきたからだ。スイス時計協会(以下、FH)の広報資料にも次のような一節がある。

  「SWISS MADEには長年培われてきた『品質の概念』が表現されている。そこには、時計の技術的特質(精度、信頼性、防水性、耐衝撃性)や、外観の美的特質(上品で独創的なデザイン)などが含まれる」

 続けて、時計メーカーのブランドネームと、SWISS MADEの文字が、つねにいっしょになって消費者に最良の保証を与えてきたと説明する。それゆえにSWISS MADE表記が偽造品製造者の格好の餌食にされてきたことにも触れている。  時計は、産業の草創期からスイスを代表する輸出品目であり、国際競争で優位に立つことは死活問題だった。スイスは、スイスという国自身の「ブランド化」を図り、リーダーの地位を手に入れた。それによって世界にあまねく「時計といえばスイス」「スイス時計=高品質時計」というイメージを行き渡らせたのである。文字盤の隅に配されたSWISSやSWISS MADEという文字は、ルーペが必要なくらい小さい。だが控えめに配されたこの言葉に託されたスイスの威信や矜恃、あるいはブランド力はとてつもなく大きいのである。

 ところが意外にも、スイス製時計の定義や表記に関する法規定が初めて施行されたのは1972年と新しく、それ以前はルールそのものが存在しなかった。規定がないので、メーカーの自由裁量に任されていたのだ。ためしに20世紀初頭から1960年代あたりまでの腕時計の文字盤を古い写真でチェックしてみると、SWISSとだけ記されている例、現在一般的なSWISS MADEと記されている例、無記名など、まったくばらばらだ。一般消費者にとって「スイスの時計」と判別できる目印があれば十分と考えられていたと推察される。

 ここで注意を払うべき点は、1972年という年で、時計産業がクォーツ革命という大きな転換点を迎えた時期だということ。60年代後半にスイスもクォーツ時計の開発に取り組んでおり、FHもその将来性についてリサーチしていた。69年にFHの代表が訪日しているように、日本製クォーツ時計が脅威になりうることも視野に入っていたはずだ。彼らは時計王国スイスの行方をどのように展望していたのだろうか。王国の牙城を守るために、スイス時計を厳密に定める法規定が切り札として期待されたのかもしれない。あくまでも想像の域を出ないが、ありうる話ではないかと思う。

 もちろん一方には、スイス時計と定義しがたい製品やスイス時計を騙った偽造品などへの対策の意味があったのは確実だ。

つづきは『クロノス日本版』2008年3月号(No.015)でお楽しみ下さい。

記事掲載号 2008年3月号(No.015) 定期購読申込 バックナンバー常設店

・掲載されている記事・画像・イラスト・動画などの無断転載を禁止します。
・すべての著作権は株式会社シムサム・メディア、またはそれぞれの著作権者に帰属します。