【第2特集】 2007年9月号(No.012) 2892、第二章。

2892、第二章。
ETA 2892A2とその代替機だち
吉江正倫:写真/広田雅将:文
ETA2892A2。その卓越した性能は、業界全体にETA依存とも言える状況を生み出してきた。だからこそ、いわゆる「2010年問題」は、メゾンのマニュファクチュール化を促すとともに、ムーブメントサプライヤーの重い腰をも上げさせたのである。
特許の有効期限切れを契機に「第二章」に突入した2892A2と、その代替機を考察する。

ETA 2892A2
1975年発表。83年に自動巻き機構を改良したA2に発展。エタクロン・セミファイン・レギュレーター搭載。通常モデルはニッケル製のテンワと、ニヴァロックス2ヒゲゼンマイを採用。クロノメーター仕様などのトップモデルは、温度変化に強いグリュシデュール(ベリリウム合金)製のテンワとアナクロンヒゲゼンマイとなる。設計者は現ETA社社長のアントン・バリー氏。直径25.60mm×厚さ3.60mm。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。拘束角51度。最大振り角315度。24時間後の最小振り角210度。
ETA 2892A2を取り巻く周辺環境
現在、ETA2892A2(以下2892)ほど評価の分かれるムーブメントはないだろう。といっても貶すのは主に熱狂的な時計愛好家。曰く、見た目が平凡。曰く、ありふれている云々。一方、称賛を惜しまないのは、実際に2892を使う各メゾンである。
小さくて薄いうえに、優れた精度と信頼性を持ち、そして安価。確かに悪く言う理由はない。では我々はどうだろう。メディアは注意深くETAの話題を避けることで、2892を貶めてきたのではないか? 結果、機械式時計の高騰を招いたとするなら、その擁護は遅きに失した感がある。だからというわけではないが、改めて2892というエボーシュを見直してみたい。
まずサイズが小さく薄い点。2892は直径25.60mm、厚さ3.60mmしかない。似たスペックを持つジャガー・ルクルト製のキャリバー889よりわずかに厚く、石数も36石に対して21石。自動巻き機構も繊細なスライディングギア式(スイッチングロッカー)ではなく、中堅機向けのリバーサー式を採用する。つまりありふれた技術だけを使い、できるだけ薄く小さく仕立てた点に2892の特徴がある。
とはいえ、その性能まで平凡なわけではない。2892のテンワは直径10mm。際立った高精度を持つロレックスのキャリバー3100系と同サイズである。この大きなテンワが2892に高精度を与えたことは、多くの時計師が指摘するとおりだ。オプションパーツを加えることでさらに精度は向上するが、それも優れた基本設計があってこそ生きてくる。
フランソワ-ポール・ジュルヌ氏でさえ称賛を惜しまない
中堅機向けの機構だけを搭載した2892は、組み立てやすく頑強なエボーシュでもある。これはキャリバー889が薄さや高精度と引き換えに、組み立てに時計師を悩ませたのとは対照的だ。現在、自社製ムーブメントの開発には、最低150万~200万スイスフランかかるといわれる。仮にそれだけの金額を投資しても、信頼できるムーブメントに仕上がるとは限らない。某マニュファクチュールの広報担当者が「2010年問題さえなければ、2892をずっと使い続けたい」と漏らしたのも当然だ。
また特別な機構を持たない2892は、それ故に安価でもある。時計ジャーナリストのクリスチャン・ファイファーベリ氏によれば、1996年頃の卸値はわずか60スイスフラン。単純な比較はできないが、某サプライヤーが提供するクロノメーター仕様ですら119スイスフラン(2007年)に過ぎない。これには格別な性能を与えるアナクロンヒゲゼンマイとグリュシデュール製のテンワ、そしてバランス取りが施されたクロノメーター仕様の脱進機が備えられている。
量産機ならではの美点を持つ自動巻き、2892。平凡な意匠と、生産数が多過ぎる点が、愛好家に忌避されてきた理由である。しかしその実力は、デビューから32年を経た現在ですら、頭ひとつ飛び抜けている。特に価格と性能のバランスという点では、ジウリオ・パピ氏やフランソワ-ポール・ジュルヌ氏でさえ称賛を惜しまないほどだ。
続きは『クロノス日本版』2007年9月号(No.012)でお楽しみ下さい。
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