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Chronos日本版

【スペシャルコンテンツ】 未来を創造するセイコーの技術遺産 Vol.1

未来を創造するセイコーの技術遺産

奥山栄一、吉江正倫:写真 広田雅将:取材・文
Photographs by Eiichi Okuyama, Masanori Yoshie Text by Masayuki Hirota

「時を測ること」にこだわったデザイン

 「グランドセイコーにとって『時間を見る』という要素は重要です。今回のグランドセイコー スプリングドライブ クロノグラフも『時を測る』という点にこだわりました」。
 デザイナーの久保進一郎氏はこう説明する。それを象徴するのが、ムーブメントの設計以前に決定されたという積算計の配置だろう。時計がシャツの袖から少しのぞく状態でも、2時位置と4時位置の積算計により、計測時間を容易に把握できる。斬新かつ視認性は極めて高い。

 プッシュボタンの形にも配慮がうかがえる。「1964年のオリンピック計時用ストップウォッチにならった」(久保氏)頭の大きなプッシュボタンは、指当たりが実にソフトだ。また、大ぶりな形には、プッシュボタンを押す際の面圧を減らすというメリットもある。

 「時を測る」ことへのこだわりはクロノグラフ針にも見られる。「視認性を高めるため、クロノグラフの針を文字盤外周のリングにかけようと考えました。しかし、インデックスと針が重なると読みづらい。だから0・15mmの隙間を空けています」(久保氏)。これを実現するため、ムーブメントはケースバックではなく、わざわざ文字盤側から挿入している。

 徹底して「時を測ること」にこだわったスプリングドライブ クロノグラフ。当然、その卓越したケースに収まるムーブメントにも、それにふさわしい性能を期待していいはずだ。

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左下/プッシュボタンを押すトルクはスタート時、リセット時ともに1.5kg。大きなプッシュボタンによって、数値よりさらに小さく感じられる。 右下/1964年に第二精工舎(現セイコーインスツル)が開発したオリンピック計時用のクロノグラフ。ボタンの形状と操作感がスプリングドライブ クロノグラフに受け継がれた。


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Cal.9R86
Cal.9R86の展開図。2番車と同軸上の4番車に垂直クラッチを載せているが、厚さは7.6mm。輪列をコンパクトにまとめた結果、クロノグラフを実現できた。直径30mm。パワーリザーブ約72時間。50石。部品点数416。

セイコーにしか作り得ない驚異的精度のクロノグラフ

 ゼンマイで駆動し、クォーツで制御するスプリングドライブ。それをベースにしたクロノグラフ・キャリバー9R86には、垂直クラッチと自動巻きという機構上の大きな特徴がある。また、機械式では成し得ない滑らかなスイープ運針と、クォーツ制御による高い精度はあえて説明するまでもないだろう。

 さらに、ゼンマイで駆動するスプリングドライブには知られざるメリットがある。それは相対的に強いトルクだ。ゼンマイで駆動する機械式時計は通常、クォーツの3・5倍近いトルクを持つ。トルクが大きいと針を大きくできるほか、複雑機構も搭載できる。クォーツの高精度と機械式時計の強大なトルクを両立したスプリングドライブは、クロノグラフにとって理想の駆動方式といえる。

 また、テンプを持たないスプリングドライブでは、クロノグラフを作動させても振り角の低下を考慮しなくて済む。クロノグラフ使用時も日差±1秒以内(月差±15秒以内)という高精度がそれを証明している。加えて、クロノグラフの伝達方式には針飛びの起こらない垂直クラッチを採用。スイープ運針と併せて、極めて正確な計時を実現した。

 自動巻き機構も、セイコーならではのマジックレバー式である。このメカニズムは一般的なリバーサー(切り替え伝え車)式に比べて、簡潔で摩耗しにくく、トルクの伝達効率にも優れる。スペースこそ必要だが、理想的な自動巻き機構であることは、近年各社が採用していることからも明らかだろう。
 セイコーらしい特徴を備えたキャリバー9R86。その設計からは、1969年に発表された、ある自動巻きクロノグラフが浮かび上がってくる。キャリバー6139。これこそ後世に多大な影響を与えたムーブメントなのだ。


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