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Chronos日本版

【スペシャルコンテンツ】 未来を創造するセイコーの技術遺産 Vol.3

未来を創造するセイコーの技術遺産 Vol.3

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垂直クラッチ式クロノグラフの集大成

 9R86には4つの特徴がある。量産性、高精度、プッシュボタンの感触、そして長寿命である。「キネティッククロノグラフの9T82はやりたいように設計させてもらいましたが、正直に言って、量産性は考えていませんでした。だから、新しい9R86では量産性も考慮しました」と平谷氏は語る。組み立てに携わる上條潤哉氏も「9Tは全体に部品を組み付けないと安定しませんでしたが、9R86は部品をブリッジに固定するので、きれいに組み上がります」とその設計を評価する。

 テンプを持たないスプリングドライブは、そもそもクロノグラフ使用時でも精度が落ちにくい。平谷氏は加えて説明する。「9Rのパワーリザーブは約72時間ですが、実際は95時間まで駆動可能です。また、スプリングドライブはローターに8分の1Hzのポンピングブレーキをかけて運針を制御しますが、今回はそのブレーキをわずかに弱めています。その結果、クロノグラフを使用してもパワーリザーブは約72時間持続します。使用時の精度も、日差±1秒以内と変わりません」。

 今回のクロノグラフでは操作感も検討された。「9R86のプッシュボタンには『ため』を設けてあります。プッシュボタンを半押しにして、そこから1・5kgのトルクをかけると、瞬時にクロノグラフが作動します。誤操作が少ないうえ、確実に機能します。設計にあたっては、1964年のオリンピック計時用のストップウォッチを参考にしました」(平谷氏)。コラムホイールと併せて、その操作感はストップウォッチを思わせるほど小気味よい。

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垂直クラッチの「皿」。4番車との接触面には手作業で筋目加工が施されている。こうすることでクラッチの密着力が上がり、駆動効率が高まった。垂直クラッチを熟知した、セイコーならではの改善策である。


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分クロノグラフ中間車が1/5の減速歯車になっているため、通常の1/5の負荷で秒クロノグラフ車の動力を分クロノグラフ車に伝達できる。さらに、抵抗を減らすため、表面にはブラスト処理が施される。


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両方向自動巻き上げのマジックレバー。1959年発表のセイコー独自の自動巻き機構。ラチェット(送り爪)式自動巻きのなかでも、もっとも薄いため、厚さを必要とする垂直クラッチの搭載が可能となった。



クロノグラフ輪列構成左上の時クロノグラフ車は、トルクの一番大きな香箱から直接動力を得ているため、クロノグラフに与える負荷は小さい。右上の分クロノグラフ車は、中心の秒クロノグラフ車から分クロノグラフ中間車を介して駆動される。中間車の独自の仕組みによって、負荷が1/5に軽減されるため、より正確な計時が可能。

コラムホイール制御部、垂直クラッチ部
 
垂直クラッチの作動メカニズム。発停レバーがコラムホイールに乗り上げると(左上)、発停レバーが皿を押し上げ、クラッチが外れる(左下)。発停レバーにはDLC処理が施され、作動時の抵抗を減らす。発停レバーがコラムホイールの柱の間に落ちると(右上)、発停レバーは皿を離れ、クラッチがつながりクロノグラフが動く(右下)。

 垂直クラッチの設計も一から見直された。「普通の垂直クラッチは、使ううちにバネが弱まります。そのため耐衝撃性が悪化してしまうのです。バネ力を増やせばいいのですが、そうするとプッシュボタンを押すときのトルクが2〜3kgに増加します。バネだけで30〜40個をシミュレーションした結果、プッシュボタンを押すトルクが1・5kgに抑えられただけでなく、30年以上実用に耐えられるという試験結果を得ています」(平谷氏)。

 垂直クラッチの軸を固定するホゾ枠にも工夫が凝らされた。ホゾ枠がルビーだと、クラッチをオン/オフする際の衝撃で割れる可能性がある。そのため、9R86では硬化加工を施したスティール製のリングを噛ませている。摩耗が気になるところだが、ビッカース硬さは800Hvもある。また、ホゾ枠だけでなく、クラッチを制御する発停レバーにも表面処理が施された。DLC(ダイヤモンドライクカーボン)加工された発停レバーの表面硬度は1300Hv。硬いだけでなく、使ううちに表面のカーボン処理がなじみ、プッシュボタンを押すトルクは1・5〜1・3kg程度まで低下するという。

 平谷氏は最後にこう語ってくれた。「6139という遺産があったおかげで、9R86は完成しました。セイコーはいろいろなことに挑戦しましたが、それもすべて今につながっています。このクロノグラフは今のセイコー以外には決して作れないでしょう」。

 6139が自動巻きクロノグラフのマイルストーンとなったように、偉大な古典に取り組み、それを昇華した9R86も後世の技術者から仰ぎ見られる金字塔となるに違いない。9R86は、それほどのムーブメントなのである。

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http://www.seiko-watch.co.jp/.
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0120-061-012


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